「所得が低い人」ほど自然環境と触れ合いに行くメリットは大きい

定期的に自然の中で過ごすことで得られる精神的な健康と幸福は、裕福な人よりも貧しい人のほうが大きい。

所得の多寡による健康格差を緩和するのに、自然が役立つ可能性があるとの研究結果を、オーストリアのウィーン大学ウィーン天然資源大学(BOKU大学)が発表した。毎週自然と触れ合うことと、心身のウェルビーイング(健康と幸福)との相関関係は、高所得者よりも低所得者のほうが強いことが判明したという。

この恩恵を得られるのは、積極的に自然環境を訪れたり自然と触れ合ったりする人のみで、もともと緑の多い環境に住んでいる人では効果が確認されなかった。つまり居住環境よりも、自然の中で野鳥観察やガーデニング、写真撮影、ハイキング、フリスビー、サイクリングなど何らかの活動を実際に行うことが重要なのだ。

考えてみれば、これは理にかなっている。収入の低い人は生活面で多くのストレスを抱えており、うつや不安障害といったメンタルヘルスの問題を抱えて苦しむリスクが高い。一方、メンタルヘルスを改善する方法の1つは、自然の中に身を置いて悩みを一時的にでも忘れることだ。こうした「エコセラピー」は、ストレスレベルの低下、免疫機能の向上、認知能力の改善、睡眠の改善、自尊心の向上、人生の満足度の向上に効果がある。

自然との触れ合いが身体的健康によいことは以前から知られているが、社会経済的地位の低さに関連した心理的な健康への効果のほどについては、結果にばらつきがある。たとえば、公共の公園やプライベートガーデンを利用できるかどうかがメンタルヘルスに及ぼす影響には、年齢や性別など異なるグループ間で差があったとの研究結果がある。これは、環境によって可能な活動の種類が違ったことによると推測されている。

別の研究では、社会経済的変数がうつや不安障害の重症度に及ぼす影響は、緑地の広さが違っても変わることはないが、緑地の質によって変化することがわかった。緑地や水辺の質を何が定義するかといえば、まずは魅力的かどうかだろう。魅力的な環境であるほど自然とのレクリエーション的な触れ合いが増え、緑地や水辺が近所にあることよりも精神的な健康と幸福に重要だと考えられるとする科学的証拠も複数ある。人によって魅力的な自然空間の種類も異なる

今回の研究では、オーストリア全土で年齢、性別、居住地域の異なる2300人を調査した。研究チームの報告によると、所得の高い人は自然を訪れる頻度に関係なくウェルビーイングが高い傾向があったが、社会の中でも貧困レベルの高い層では、自然を訪れる頻度が高いほど精神面のウェルビーイングが大きく向上した。

実際、都市部の公園などの自然環境を週に数回訪れた貧困層のウェルビーイングは、最も裕福な調査対象者とほぼ同じだった。この傾向は、オーストリア全土とウィーン都市圏の両方で明確に示された。

「この研究結果からわかったのは、1年を通じて少なくとも週に1回、自然を訪れることで得られるウェルビーイング向上効果は、年間1000ユーロ(約16万円)の収入増による効果と同程度だということだ」と、論文の筆頭著者で、ウィーン大学博士課程で環境配慮型行動と自然との触れ合い効果について研究しているレオニー・フィアンは述べている。

この研究における「自然」には、公園や林、森などの緑地と、川、湿地、ビーチ、運河などの水辺が含まれる。この点は、都市生活者にとってはとりわけ重要だ。居住地や収入に関係なく、すべての人がメンタルヘルスに対する自然の恩恵を受けられることを意味するからだ。

「特に低所得者にとっては、魅力的な憩いの場となる自然環境が近くにあり、公共交通機関で行かれるという情報が重要な役割を果たす」と論文の共著者で、都市森林のレクリエーション利用が専門のBOKU大学准教授アルネ・アルンベルガーは語る。

興味深いことに、自然と触れ合うことによるメンタルヘルスの改善効果は、高所得者には見られなかった。

残念ながら、社会経済的地位の低い人々の間で自然環境を利用できる人とできない人がいる状況は、健康の不平等を悪化させる恐れがある。このため、特に都市部に住む人について、誰でも緑地や水辺を利用できるよう支援する必要がある。

「つまり、週末には公共交通機関で簡単に行かれるようにすべきだ」とアルンベルガー准教授は提案した。

この発見は、公衆衛生戦略、中でも大都市圏における社会経済的なメンタルヘルス格差に取り組む上で意義深い。公衆衛生の観点からは、より緑豊かな地域や自然の憩いの場をつくるだけでなく、それらの空間を利用しやすくし、特に社会経済的に恵まれない人々にとって訪れやすい場所にすることが肝心だ。

出典:Leonie Fian, Mathew P. White, Arne Arnberger, Thomas Thaler, Anja Heske and Sabine Pahl (2024). Nature visits, but not residential greenness, are associated with reduced income-related inequalities in subjective well-being, Health & Place 85:103175 | doi:10.1016/j.healthplace.2024.103175

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